|
ロシアがウクライナに軍事侵攻して以降、日本国内で「核シェルター」の販売数が伸びているという。ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用も辞さないと示唆しているため、もしものときに備えてシェルターを買う人が急増しているようなのだ。
もっとも、日本核シェルター協会の資料によれば、人口あたりの核シェルター普及率は、日本ではたったの0.02%(2014年、国内の核シェルターで収容できる国民の割合)。核シェルターの購入者がかなりの少数派だということがわかる。
平和なはずの日本で核シェルターを購入しているのはどんな人たちなのか。米国の核シェルターメーカーと契約して住宅用防災シェルターを輸入・販売している「アンカーハウジング」代表の吉山和實氏に取材した。(取材・文=押尾ダン/清談社)
◆◆◆
約1500万円のシェルターが、5日間で13基も売れた吉山氏によると、日本国内で核シェルターの需要が急増したのは5年前、2017年のことだという。2017年といえば、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが北海道上空を通過し、襟裳岬沖の東方約2200キロ付近に落下する騒動が起きた年だ。
吉山氏が当時の状況をこう語る。
「日本政府がJアラートを通じて北海道や東北、北関東で避難を呼びかけるなど、大きな騒ぎになりました。それをみて『今後はシェルターの需要が伸びる』と確信し、核シェルターを開発している米国の大手メーカーと契約して販売を始めたんです。
すると、北朝鮮のミサイルに恐怖と不安を感じる人々からの問い合わせが殺到し、住宅のガレージや地中に埋めるタイプのシェルターがわずか5日間で13基も売れた。現在のシェルター需要の高まりは2017年当時の状況とよく似ています」
ちなみに、この米国製シェルターの価格は設置費用込みで約1500万円。高さは約4.5メートルもあり、厚さ6ミリの鋼鉄の壁に覆われ、停電時に手動で動かすことのできる空気濾過システムを装備している。入り口の鉄の扉も頑丈そうで、これなら瓦礫で埋もれても心配なさそうだ。
とはいえ、1500万円という価格や設置場所などを考えると、庶民がおいそれと買える代物ではない。いったいどんな人が購入しているのか。
そこでシェルターを購入した人に話を聞きたいと思い、吉山氏に紹介を依頼したところ、意外な返事が返ってきた。
「さすがにそれは無理ですね。わざわざ自分からシェルターを買ったと公表する人なんて、世界中どこを探してもいません。シェルター先進国の米国にさえ、そんな人はいないでしょう」
シェルター購入者が、「秘密主義」な理由なぜシェルターの購入者は秘密主義なのか。言われてみれば納得なのだが、そこにはこんな事情があるのだという。
「購入したことを公表して、家にシェルターがあるというのを親戚や近所の人などに知られたらどうなると思いますか。本当にミサイルが落ちたり大地震が起きたりしたとき、『助けてくれ!』『入れてくれ!』と、みんなその家に押しかけてきますよ。
そうなったら無下に断るわけにはいきません。だから、みんなシェルターの購入を隠すんです。冷たい言い方になりますが、シェルターというのは自分の家族を守るために高いお金を払って購入するもので、他人を守るためのものではないんです」
近所の人に「なんの工事?」と聞かれたら…購入者がシェルターをどれだけ秘密にしたいのかは、設置工事を行う業者との秘密保持契約をみてもよくわかる。吉山氏の会社では、事前に工事業者から「自分の家族にもシェルターの工事をしていることを口外しない」と一筆もらっているという。
「それくらい秘密保持に神経を使っています。ただ、設置工事は2週間ほどかかるんですが、そのうちの半日、クレーンで吊り上げてシェルターを地中に埋める作業を行うときだけ、外からシェルターの本体が見えてしまうことがあります。
そのとき近所の人から『なんの工事をしているのか』と聞かれたら、『いざというときのための貯水槽を埋めているんです』と答えます。形状的にもシェルターと貯水槽はよく似ているので、そう言っておけばシェルターだと疑う人はまずいません」
1500万円のシェルターをポンと購入するくらいなので、購入者のほぼ100%が純金融資産保有額1億円以上の富裕層だ。
「年齢でいうと、50代や60代、70代の余裕のある人が多い印象です。経済的に余裕がないと、シェルターを購入しようという発想にはならないんです。多くの人は、そのお金があるなら子どもの教育費や車の買い替え費用に回したいと考えます」
しかし、潤沢な現金をもつ富裕層は違う。高級車を複数台所有する彼らにとって、1500万円はメルセデス・ベンツやレクサスの新車を買うのと同じ感覚だ。だから、ミサイルや災害から家族を守りたいと思えば、迷わずシェルターを購入するのである。
1500万円を「現ナマで支払っていいか」「購入者の職業や素性は明かせませんが、ひとりだけ変わったお客さんがいました。弊社ではシェルターの注文を受けると、設置場所の調査をしたうえで代金を前金でいただくんですが、その人は1500万円を『現ナマで支払っていいか』と言うんです。
びっくりしましたよ。現金でもらうと、そのお金を車で銀行まで運んで入金しなければいけないので面倒なのですが、嫌とも言えず……。おそらく、何か事情があったのでしょう」
ロシアによるウクライナ侵攻から4カ月以上が経過したが、この戦争はいまだに終りを迎えそうにない。北朝鮮も6月上旬に8発のミサイルを発射して日本海に着弾した。この様子では、シェルターを購入する富裕層の数がますます増加しそうだ。
〈写真多数〉2段ベッド、ハイテク設備、そしてなぜかワインセラー…お値段1500万円、ガチすぎる「核シェルター」に潜入してみた へ続く
(清談社)

(出典 news.nicovideo.jp)
コメントする